最高裁判所第一小法廷 昭和35年(あ)2884号 判決 1961年4月20日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人天宮忠三郎の上告趣意第一点について。
所論は、刑法一八一条が傷害の結果を生ぜしめた場合の法定刑を、死の結果を生ぜしめた場合の法定刑と同一とし、前者を後者より軽くしていない点において、同条は憲法一三条に違反するというのである。しかし、刑法一八一条が、傷害の結果を生ぜしめた場合と死の結果を生ぜしめた場合との法定刑を同一としているのは、同条所定の犯罪行為の態様に照らし、前者が常に必ず後者より犯情が軽いというわけのものではないので、右の二つの場合につき、犯情に照らし適切な科刑をなしうるよう同一の法定刑を定めたものと解するを相当とする。そして、相当の理由があって設けられた刑罰規定については、その刑が他の一般の刑に比して重いという丈の理由で、憲法一三条に違反するといえないことは、当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第一〇三三号、同年一二月一五日の大法廷判決、刑集二巻一三号一七八三頁、昭和二六年(あ)第九九〇号、同二九年一一月一〇日大法廷判決、刑集八巻一一号一七四九頁)。しからば、傷害の結果を生ぜしめた場合と、死の結果を生ぜしめた場合とにつき同一の法定刑を定めた刑法一八一条は、相当の理由に基づき定められた刑罰規定と認められること前述のとおりであるから、同条が憲法一三条に違反するものでないことは、前掲当裁判所の判例の趣旨に照らし明らかである。されば所論違憲の主張は採るを得ない。
同第二点について。
所論は判例違反をいうが、引用の判例は事案を異にし本件に適切でなく、論旨は結局事実誤認、これを前提とする単なる法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
同第三点について。
所論は違憲をいうが、実質は単なる法令違反、量刑不当の主張を出でないものであって、同四〇五条の上告理由に当らない。
よって、同四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)